ジム・キム世界銀行総裁と日本の社会イノベーター5名によるパネルディスカッションが昨日開催され、会場参加する機会を頂きました。ほんの80分の短いセッションだったにも関わらず、日本の起業家のみなさんの分かりやすい説得力のあるプレゼンテーション、司会者によるテンポのよいモデレーション、そして何よりポイントをとてもシャープに、そしてユーモアを交えながら貧困撲滅に対しての真摯な言葉を発するキム総裁の存在感によって、とても刺激的な時間になりました。忘れないうちに簡単に印象をメモしておきたいと思います。

『世銀総裁と語る:開発にイノベーションが果たせる役割とは?』(世界銀行グループ・政策研究大学院大学 共催)
Dialogue with WBG President : How Can Innovation Scale Up Development?

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冒頭キム総裁から開発分野でのイノベーションについてまず一言。 “Innovation is context sports”と語っていたのが印象的でした。つまり、「イノベーションは晴天の霹靂から生まれるものではない。“日々のコンテキスト”の中から生み出されていく。私たちの中に眠っているアイデアから、世界規模の有効なイノベーションが起こると願っている」と、会場からの共感を集めていました。

引き続き5名の起業家のみなさんによる自己紹介。
・5年前の夏休み、グラミン銀行のインターンのためにバングラディシュを訪れ、そこで自分の成功体験があったDVDを使った遠隔地教育の可能性を見いだし現在は4大陸10カ国以上で教育事業を展開している税所篤快さん(e-Project 代表)。
・エチオピアでの青年海外協力隊の活動を経て、その後世界最高峰の素材ともいわれるエチオピアのレザーシープ・スキン(羊の毛皮)を使ったレザー製品を製造・販売している鮫島弘子さん(株式会社 andu amet 代表)。
・友人が義足になったことをきっかけに最先端のロボット義足や途上国向けの安価な義足の研究を続けている遠藤謙さん(ソニー・コンピューターサイエンス研究所アソシエート・リサーチャー)。
・15年間様々な国や地域で国際開発分野での経験を経て、数年前からコペルニクのプロジェクトマネージャーとしてソーラーライト、調理コンロ、浄水器などの革新的なテクノロジーを現地の人々へ届けている濱川知宏さん。
・小学生のときにwebに出会い、その後携帯用ブラウザを開発する『jig.jp』を創業、現在はオープンデータを活用して様々なアプリを開発している福野泰介さん(株式会社jig.jp 代表取締役社長)

持ち時間数分だったにも関わらずインパクトあるプレゼンテーションで、キム総裁も熱心にメモを取りながらそれぞれの取り組みに深く頷いていました。
*やり取りなどセッション全体のツイート中継は乾巧二さん(@resigner)が安定感のあるTogetterまとめでアーカイブしてくれています。是非ご覧になってみてください↓

議論はその後どのようにしてイノベーションをスケールさせるかという話に移り、更に会場からの質問として本物のイノベーションを見極める方法は?、モチベーションを維持する方法は?などについて興味深いディスカッションが展開されていきました。イノベーションをスケールさせるために世界銀行が行える役割はどうでしょうか?という質問に対しては壇上福野さんから、「ティム・バーナーズ・リーが定義するオープンデータの5つの段階において世界銀行の取り組みはまだ3段階なので是非5段階目まで進めて頂きたい」という意見も飛び出て、一瞬緊張感が漂う場面もありました。

その後キム総裁がまとめて質問に答え、締めのメッセージを語り始めた時、思いがけない言葉が発せられました。「福野さん、オープンデータの取り組みに関しては是非一度ワシントンDCの世銀本部まで来てください(会場内にいる担当の○○さんに立ち上がってもらい)、彼と連絡をとって是非ワシントンで5段階に到達させる方法についてお話を聞かせてください」というものでした(会場拍手)。

80分のセッションの中でいろいろと学び溢れる場面があったのですが、個人的な大きな学びは、キム総裁が醸し出すリーダーシップのスタイルでした。話し方、服装、立ち居振る舞い、ユーモア、キーメッセージを伝える際の息づかい、そしてドキッとするような世銀の取組みに対する「ダメだし」に対しても誠実に回答し、日本の若手リーダーに対しても謙虚にアイディア・ソルーションを求める姿勢でした。

キム総裁がやり取りの中でちらっと語った一言が気になっていました。「モチベーションを維持するためには?」の問いに対し、「Now I have a coach(私は今コーチングを受けている)」とほんの一瞬お話していた言葉がとても気になったのです。世界銀行の総裁が・・・コーチングを受けている?ということを公開の場所で伝えることは意外なのでは?・・・と、思ったからです。

関連キーワードを検索すると一番上位に以下のワシントンポストのインタビュー記事を見つけることが出来ました。

Trying to change the World Bank – The Washington Post(2014/4/10)

記事の中に埋め込まれている以下の動画の中ではっきりこう言ってます。「私の外科医/作家の友人曰く、タイガー・ウッズがコーチングを受けているのに経験のある外科医である自分がコーチングを受けてもいいのではないか?と。私は5年前から世界的に有名なマーシャル・ゴールドスミス氏からコーチングを受けているのです。」

上記ワシントンポストのインタビュー記事は少し長いですが、キム総裁の人柄、過去、リーダーシップについての考え方がとてもよく伝わってくるものでした。ご興味のある方は是非、ご覧になってみてください。ポイントだけ箇条書きをすると以下のような点にとても共感を持ちました。

・キム総裁は世銀が新たに掲げている2030年までに極度の貧困状態をなくすというミッションの他に効率的な業務運営のための大幅な機構改革に取り組んでいる(今後3年で約400億円の削減目標)
・リーダーシップについて最も大切なことの一つは自分がコーチングを受けているという謙虚さのようなものを持ち、改善のためのフィードバックを常に受けること(マーシャル・ゴールドスミス氏はフォード社やウォルマートのCEO、ジャック・ウェルチ氏など数多くの著名経営者に対するコーチング実績を持っている人物。著書に『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(日本経済新聞社)がある)
・キム総裁は20年前の1994年、世銀創設50周年の時に当時の世界銀行が医療や教育よりも経済やGDPばかりに注力しているとして反対運動(「50 years is enough」運動)に参加し世銀の閉鎖を訴えていた。ただし、その後医療・教育などの改善が経済発展に繋がることが実証され改善されている。
・リーダーシップについてのベスト・アドバイスは、と聞かれた際に紹介したのはGEのCEOジェフ・イメルト氏。彼がCEOに就任した際、出身のヘルスケアビジネス以外の業界経験がないが大丈夫かと心配された際、「どれだけ知っているかではなく、どれだけ早く学べるかが大事」と述べたエピソードを紹介している。
*この記事には詳細は書かれてないのですがかつて若かりしジム・キム氏がハーバード大学の同級生ポール・ファーマー氏らと設立し後に代表を勤めていた非営利組織「パートナーズ・イン・ヘルス」について、2年前に邦訳が出版された以下の書籍『権力の病理』で紹介されています。筋金入りの社会起業家である過去の実績があるからこそ今の活躍があることも納得です。

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今回のイベントを経て、キム総裁、そして世界銀行の今後に以前にも増して前向きな印象を持つことが出来ました:)2030年に向けての今後の活動に注目したいと思います。また、イベントの中で思い切りの笑顔で「貧困撲滅に興味のある方は世界銀行で働くことを考えてみてください」とリクルーティング活動にも一生懸命な姿が印象的でした。学生の方・ミッドキャリアの方向けのインターンシップ、中途採用に関する情報はこちらからご覧になれます。

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追記(滞在中のインタビュー動画アーカイブ)
途上国インフラ開発資金 毎年100兆円 NHKニュース
NHK WORLD English Interview

市川裕康
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