2020年の東京でのオリンピック・パラリンピック開催という昨年9月のニュースに接して以来、静かに、折に触れて何度も沸き上がってくるテーマとして、「日本発のグローバル言語での情報発信」、そして「海外で起きていることの中から大切な情報・文脈をタイムリーに日本語で吸収・共有すること」があります。個人で取り組むにはあまりに大きすぎるテーマ故、何か出来ないか、と考える度にどこから手を付けてよいのか困ってしまう、そんなテーマです。

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そんな時、『パブリック・ディプロマシー戦略 〜 イメージを競う国家間ゲームにいかに勝利するか』(金子将史氏・北野充氏編著 PHP研究所)を読む機会がありました。とても読みやすい内容で、気になっていた事象に対する背景、裏付けデータ、そして何より外交の現場で実際に「パブリック・ディプロマシー」に取り組まれている専門家(外務省、官邸、国際交流基金、在日米国大使館などの責任ある立場の実務家、韓国国立外交院副教授、米国シンクタンク研究員など)により全13章が構成されていて、臨場感も豊富に感じさせてくれる内容でした。

ちなみに、パブリック・ディプロマシーに関しては本書の中で以下のように定義されています。

『自国の対外的な利益と目標の達成に資するべく、自国のプレゼンスを高め、イメージを向上させ、自国についての理解を深めるよう、また、自国の重視する価値の普及を進めるよう、海外の個人及び組織と関係を構築し、対話を持ち、交流するなどの形で関わったり、多様なメディアを通じて情報を発信したりする活動』(本書26ページより)

13章の章立ては以下のようになっています。

第1部総論
 第1章:パブリック・ディプロマシーとは何か
第2部世界のパブリック・ディプロマシー
 第2章:ソフト・パワーからスマートパワーへ〜パブリック・ディプロマシーによる米国の国益推進
 第3章:力強い発信継続への英国の挑戦
 第4章:ワシントンは中国パブリック・ディプロマシーの主戦場
 第5章:韓国におけるパブリック・ディプロマシーの現況
 第6章:パブリック・ディプロマシーにおける国際放送とは
 第7章:ソーシャル・メディアの影響と活用
第3部日本のパブリック・ディプロマシー
 第8章:日本のパブリック・ディプロマシーの全体像
 第9章:東日本大震災後の官邸からの国際広報活動とパブリック・ディプロマシー
 第10章:3.11後の国際文化交流
 第11章:政策広報の実践
 第12章:官邸における国際広報の現状と課題
 第13章:日本語教育

個人的にとても興味深く感じた新しい発見としては、中国国営放送CCTV(China Central TV)が2012年2月にワシントンDCに設立した「CCTVアメリカ」(中国政府により運営されている中国版CNNのような国際放送局)と、ワシントンで無料配布されているフリーペーパーの「チャイナ・デイリー・アメリカ」の増大する影響力についてでした。

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CCTVの英語版は全世界120カ国以上で1億人の視聴者を持つといわれていて、もしそれが事実とするならば英国のBBC, 米国のCNN、カタールのアル・ジャジーラに次ぐ存在とのことです(99ページ)

以下は2012年3月、ワシントンのスタジオが出来てすぐにPBSで放映された番組の動画ですが、当時から既にこれはニュースか、プロパガンダか、ということが議論されています。

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ちなみにこちらがNHKワールドの英語版のサイトです。2008年に全編英語での放送としてスタートして東日本大震災当時には世界中から多くのアクセスがあり、海外からも認知は上がったとのことです。ただ、その後国際放送の強化に関しての議論は行われているものの受信料収入中心の自主財源で運営がされているということもあり、国として積極的に財源を投下している中国と比べるとどうしても見劣りがしてしまいます。今後政府としても力を入れていくなど、積極的な取り組みに期待したいところです。

チャイナ・デイリーのウェブサイトを見ていて興味深かったのは、中国に滞在している外国人によるブロガーコンテストが行われていることでした。チャイナ・デイリーのウェブサイト上にアカウントを作成、月に4回程度の投稿(英語)をしてくれる人を募り、読者からの投票で3ヶ月毎に人気のあるブロガーに対してiPad mini, Kindle, iPodなどが商品として提供されるというものです。

日本で起きていることを海外に発信する際、 メディアとしては「NHK World」, 「Japan Times」、新しく設立された「Nippon.com」(一般財団法人ニッポンドットコムが公益財団法人日本財団の助成を受けて、2011年10月から運営している多言語ウェブサイト)などがありますが、英語や他の言語で発信しているブロガーの声がいい形でまとめられて信頼に足るようなプラットフォームが生まれることなどにはとても期待していることもあり、チャイナ・デイリーの試みはとても興味深いものでした。

本書を通読することで、海外、国内のパブリックディプロマシーに関する豊富なデータや関連情報、日本のパブリック・ディプロマシーの具体的な取り組み・課題、ソーシャルメディア活用の現状、展望などを包括的に学ぶことが出来る、良書だと思いました。「パブリック・ディプロマシー」とは職業外交官によって行われる「秘密外交」のようなものではなく、地方自治体、企業、NPO、学校、そしてアーティスト、ビジネスパーソン、市民など、幅広い人が参加してこそ成功するものでもあり、国際的な文脈で今後活動していく方、そのようなキャリアに興味を持つ学生の方にとってはとても示唆に富む本だと思います。多くの方に読まれ、そして何らかの実践がそこから生まれてくることを願ってます。

他にも共有したいことはたくさんあるのですがまずは、読了報告までに:)今後も「2020に向けての国内外を結ぶようなメディアのあり方」について、折に触れて情報発信していきたいと思っています。

追伸:第7章:「ソーシャル・メディアの影響と活用」の文末主要参考文献として拙書「Social Good 小事典」(2012 講談社)が紹介されていて、とてもとても光栄でした:)有り難うございます。

市川裕康
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